桜のいたずら

３．春なんて

　鼻の奥が、ツーンとくるこの感じ。
　目も、目も周りも、全部がかゆい。

「っ、はっくしょん！！！」

　マスク着用が緩和された今も、花粉症の僕にはマスクが欠かせない。

　会社のあるオフィス街まで続くこの遊歩道には、今年も桜がたくさん咲き誇っている。
　道行く通勤する人達もみんなそれを見上げている。
　桜の向こうには、晴天の空。

　なんとも気持ちの良い朝……のはずなのに。

　花粉は最悪だし、これから仕事だから憂鬱だし、おまけに大嫌いな桜がこんなにも満開で、それがなんとなく僕を見下しているような気がして嫌になる。

　遊歩道を抜けるとちょっとした広場があって、平日の早朝だというのにお花見の準備をしている人たちがいる。

「桜、綺麗だね〜」
「本当、よく咲いてるわぁ」
「今が一番満開なんじゃないかな」
「たくさん写真撮らないと！」

　通りすがるときに聞こえてきた知らない人たちのそんな声に、思わず舌打ちをしてしまいそうになり、慌てて自粛した。