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「おはよう!」
オフィスに入ってすぐ、朝から元気に僕の肩を叩いてきたのは、同僚の立川だ。
僕とは正反対の、体育会系で明るい彼は、朝から元気一杯だ。
「おはよう」
「なんだよ、今日もテンション低いなー。見た?遊歩道の桜。通勤中から幸せな気持ちになったわー!」
……チッ、お前もか。
「え、それどういう意味だよ?」
しまった、つい声に出してしまっていた。
「いや、なんでもない」
その場を逃げるように、急いで自分の席へと向かった。立川が怪訝そうに僕を見ていたけど、気付かないふりをした。
「あ、そうだ、今日もあのカレー屋行こうなー!」
背中に聞こえた彼の声に、振り向かずに手だけをひらひらさせた。
僕と立川は、全然違うキャラなのにも関わらず、入社して同じ配属先になってからというもの、毎日一緒に昼食を共にしている。
変に真面目で面白くもなんともない地味な僕と、ほどよく茶目っけがあり、元気で人当たりも愛想も良い立川。
似ている要素は一つもないのになぜか波長が合うのは、なんでなのだろう。
そういえば、あの恋愛番組で桜良が告白されて見事成立していた俳優の卵みたいなあの彼は、どちらかというと立川みたいな雰囲気だった。
そうだ、やっぱり僕なんかのことを桜良が好きになるなんて、最初からありえない話だったのだ。
女優の卵として、恋愛番組なんか出ちゃって。
どうせ売名行為でしょ、なんて卑屈な気持ちもあるけど、ちゃんと夢を叶えて華やかな世界に行った彼女を、応援したいとは思う。
僕は今日も、真面目に業務に取りかかる。
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