泥黎耶さま

2/2
10人が本棚に入れています
本棚に追加
/63ページ
「これがそうなのか?」 ブルーは小さな片手で持てるくらいの木で出来た観音像を持ちながら言った。 「それ程、高そうには見えないな? つーか、俺から見たらゴミだ」 ロン毛が言った。 「別に見た目だけの問題じゃない。作られた時代とか、誰が作ったとか、どういうルーツかとか、そういう歴史的な価値で取引されてる物だ」 ナイキが言う。 「これは、なんて読むんだ?」 ブルーが観音像を見ながら言った。 『泥黎耶様』 と仏像の背中に掘られていた。 その字を誰も読む事が出来なかった。 ブルー達は地図を使い、連谷神社まで来ていた。 あの屋敷から此処まで、奇跡的に蟻には合わずにすんだ。 「仏像と言われてたが、そりゃ観音像だ? それで本当に良いのかな?」 ナイキが言う。 「そう言ったって、この小さいの以外此処にはねえ?」 ブルーが言った。 「それともう1つ気になるのが、仏像にしろ観音像にしろ、それは仏教だ。神社は神道だから、基本そんなもん祀られてない。神様を模した木彫が無い訳では無いが、それはどう見ても仏教由来の観音様の姿をしている。まあ、神仏習合ってのもあるけど」  「神仏習合?」 「元々日本は神道だから、昔仏教が入って来た時に、受け入れ易いように仏を神として祀った事があった。まあ、一緒にした事があったんだよ」 「此処がそれだってのか?」 「いや、こんな名前の観音様なんか聞いた事ない。これは神様の名前でもない。多分、神社や寺を真似て、この島独自の神様に姿を与えて祀ったんだろう? 隠れキリシタンのキリストやマリアは、仏や観音に似た見た目だ。姿を誤魔化す為もあるが、見た目の分からない神によく知る仏の姿を重ねて想像したのもある。そんな感じの物だろう」 「ナイキ、お前詳しいな?」 「昔、こういうのの窃盗グループにいた。日本は寺や神社の警備が薄かったからな。今は警備も厳しくなったし、ダミー置いたりしだしたから辞めたけどな」 「なるほどな? まあ、そうなると逆にこれが持って来いって言ってた仏像の可能性が高くなるな? この島独自なら、この島にしか無いんだろう?」 「でも、それじゃこの島の島民以外それの価値がない。流通しないなら金にはならない」 「ああ、そうだな? だからこの島の元住民が依頼主なんだろう? 主犯がそうなのか? または主犯に依頼した奴がそうなのか? 幾ら出しても買うって言ってる奴が居てそいつが島の元住民なのか? その辺は分からないが、欲しがってるのが嘗ての島民で、此処にしかこの仏像が無いなら、こんなもん欲しがるのも腑に落ちる」 「なるほど、歴史的な価値じゃなく宗教的価値か? あり得るな。カルトなんかで、工場で大量生産したようなゴミみたいな仏像をうん千万とかで信者に売ったりするからな。信者はそれを有難がって買う。まさに鰯の頭も信心からだな」 「像は欲しいが、島は今は化物達に支配されてるって訳か?」 「どうでも良いから、もう行こうぜ? 此処は何が出て来るか分からねえ」 猿が言った。
/63ページ

最初のコメントを投稿しよう!