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「踏まれて強くなる種もあるの。シロツメクサとか。かれらは踏まれて強くなるの。そんな草花は私たちの手なんて必要ないわ。でも、スイセンはそうじゃない」
まさみさんは慈しむようにスイセンの花に視線を落とした。
「踏まれて強くなるものもいれば、こんな風に簡単に折れちゃうものもいる。そんな弱いものは私たちが守ってあげなきゃいけないって思うの」
気のせいか、まさみさんのこえが震えているような気がした。
「それは、人間だってそうなのよ」
それ以上追及してはいけないような気がして私は木づちを振りかざした。
数本打ち付けてロープでソコを囲うと、まさみさんは足元にまだ散乱している杭を手にして立ち上がった。
「他にもあるからね、ゆっくりしてると奉仕残業になるわよ」
いや、臨時とはいえ公務員を無料で残業させちゃだめだろうなんて思っていると、まさみさんは私をせかしながら肩をぶつけてきた。
「本当にあなたがスポーツマンでよかったわ。これからは粗大ゴミも自分で回収してもらおうかしら」
「私は構いませんよ」
「嫌だわ、冗談よ」
あんなにクールで仕事一辺倒だと思っていたまさみさんが、実はお花好きだったなんて。いやそれは偏見か。でも、スイセンのことと言い瓶のことと言い、この人は意外に地球環境にやさしいのかもしれない。一瞬そう思ったが、よくよく考えたら、先日のゴミ放置の件、お花好きと言っても桜は例外な事、総合するとやっぱりこの人の事は良く分からないなというのが率直な感想だ。
それでもまさみさんの意外な一面を見せられて、体の疲れも時のたつのも忘れて、私は初めての二人きりの作業に没頭したのでした。
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