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何をしたいのか分からず、取りあえず木づちを振り上げると、まさみさんは横目に地面を見ながら言った。
「ほら、ここにスイセンがあるでしょう」
視線の先に目をやると、そこには横倒しになって萎れかかったスイセンの花が倒れていた。
「きっと花見客がここにござでも敷いて座ってたのよね。可哀そうに」
私が一振りすると、悔いは結構深くまで入った。ここの土は結構軟らかいようだ。
「私、桜の木って嫌いなのよ。っていうか桜に巣くう毛虫がなんだけどね。子供のころ知らずに触ってめちゃくちゃ手が腫れてさ。それ以来大っ嫌い」
理由は違えど、この人も桜が嫌いなんだと知って仲間意識が芽生えてしまう。
「毛虫だけじゃなく酔っ払いまで引き付けてさ。おかげで他の花々は迷惑してるじゃない。このスイセンもそう」
三回も叩くと杭はしっかりとそこに固定された。まさみさんは次の杭に手を伸ばす。
「だからね、今後踏み荒らされることが無いように囲ってあげるの。だって可哀そうじゃない」
なるほど。まさみさんが直々に来た理由はそれだったのか。でも、私には共感できない部分もあった。
「あの、踏みつぶされるのはスイセンだけじゃないと思うんですが」
「そうね、その通りよ。でもね」
二本目の杭が固定された時だった。
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