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3戦3敗からの
彼は、来る日も来る日も女の子に告白され、その都度キッパリと断っている。今回はそんな「彼」のお話だ。
私には告白なんてできっこない。考えただけでぶるぶる震えちゃう。あーこわい。
それに、告白されたことなどもちろんない。されるはずもないけれど。もしも、告白なんてされちゃったなら、そんなに好きじゃない男の子でも付き合ってしまうことになりそうで。あーこわいこわい。
「3組に3敗した子がいるらしいよ」と情報通(主に恋バナ)の紗耶香が言う。
「さ、さ、さ、3敗って、3回告白したってこと??」
「そりゃそうでしょ。3戦3敗よ」
「さ、さ、サンっ、センっ、サン、パイ!?」
「ちょっと、まゆ。どうした? 落ち着きなさいよ」
言っとくけど3連敗に驚いたわけじゃない。その子が3回も告白したことに驚いたのだ。1回ならともかく、3回もなんて。あーこわいこわい。
あまりの怖さにぶるぶる震えていた私に、紗耶香が容赦なくとどめの一撃を加えてきた。
「これは噂なんだけど、過去に15回告白した子がいるんだってよ」
「じゅっ! ジュっ、ジュウ、ゴ、……カイ…」私は目を回してその場で気絶した。(比喩だけど)
私も〝御多分に洩れず〟彼に好意を抱いていた。なのに、3回は疎か15回も女の子を振るなんて! どういうメンタル? 悪魔よ! きっと彼は悪魔に違いない! そんな男に好意を抱いていた自分にも腹が立ってきた。
それはともかくとして。一旦、落ち着こう。深呼吸。スーっ(吸って)、フーーっ(吐いて)。スーーっ、フューーー。あれ? 紗耶香がまだなんか言ってる。
「ちょっとまゆ! フューフュー言ってないで聞きなさいよ!」
紗耶香の話にはまだつづきがあるようだった。私は悪魔の話なんてもう聞きたくもなかったけど、最後まで聞いた。結果的に聞いておいてよかったと思えた。良くも悪くも。
来る日も来る日も女の子からの告白を断りつづけている彼は、どうやら「15回告白された女の子」と交際しているらしい。なので現在の彼には告白を断る正当な理由があるのだ。今では彼のほうが「15回告白された女の子」にベタ惚れで、14回も振ったことを深く反省したらしく、その後断る際には相手を傷つけぬよう細心の注意を払っているのだという。
それを聞くと、彼を悪魔呼ばわりした私のほうが間違ってるっぽいけど。でもそれってただの噂でしょ? 「いっそ、私がたしかめてやる」そう思った。妙な正義感でアドレナリンが溢れ出してきた。
明日、彼に告白して振られよう!
振られることがわかっていればドキドキする必要もないし、告白を怖がる理由もない。
それよりも、彼が悪魔じゃなかった場合、私を傷つけぬようどんな言葉をかけてくれるのかに興味があった。傷つかずにすむならいっそ振られたいと思った。ぜんぜん痛くないと評判の歯医者になら行ける。好き好んで痛みに苦しみつづける人なんていない。そんな思いが勝(まさ)ってきた。「あれ? もしかして…」その他大勢の女の子もおなじなの?
だとしても、それは御多分に洩れず好意を抱かせてしまう彼の宿命のようにも思えた。
「え? どうして?」
そんなことを考える自分に違和感を抱いた。私の中で、いつの間にか逆転していた。明らかに彼が正義で私が悪者だった。
「あーこわいこわい」
悪魔になりそこねた私はひとりごちた。
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