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調味料と混ぜた卵を箸でかき混ぜていく。さっきの朝比奈さんに比べて動作がぎこちないのが自分でもわかる。
とはいえ、ボウルと箸のぶつかる高い音が耳に入るうち、ああ料理してるなって実感が湧いて、少し楽しくなってきた。
朝比奈さんが調節してくれた火の上に卵焼き器を置き、なんとなく上に左手をかざして熱を感じてみる。「そろそろいいと思う」と教えてもらえたので、キャップを開けて油を注いだ。どぼどぼどぼ。
「ちょっと入れすぎ」
「ごめんなさい」
悪いことをしたわけじゃないのになぜか謝ってしまう。
「卵は一度に入れるんじゃなくて、まずは三分の一くらい入れてみて」
朝比奈さんのアドバイスを受け、僕はゆっくりと息を吐きながらボウルを傾けた。油を入れすぎた時の反省を生かして慎重に。どぼぼ。たぶん、これで三分の一くらい。
卵焼き器をいろんな角度に傾けて卵液を全体に行き渡らせる。ふつふつと沸き立つ黄色。食欲をそそる眩しい香り。ああ料理してるなって感じ再び。
「そろそろ巻いてこっか」
「はい」
頷いてみせたのはいいものの、これ結構難しくないか?
力加減が悪いのか角度が悪いのか、卵がなかなか思った通りに巻かれてくれない。頭の中ではくるくると器用に形を整えるイメージができてるのに、全然剥がれないじゃんこれ。朝比奈さん、さっきどんな魔法使ってたんだよ。
そうこうしているうち、手元の卵焼き器から徐々に火災現場みたいな悪臭が漂ってきた。
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