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「香取ー! カラオケ行こうぜ!」
帰りのホームルームが終わるなり遊びに誘ってきた友達に対し、僕は心苦しくもかぶりを振った。
「ごめん、今日はちょっと用事あるんだ」
「用事ってなんだよ。彼女でもできたのか?」
「そうじゃないよ」
まだ、そうじゃない。
頭の中でそんな言葉がよぎり、にやけるのを必死に我慢した。
「しょうがねーな。今日みんなであの曲合唱するから香取もって思ったのに」
その後友達が告げた曲名は、最近流行っているアイドルの新曲らしかった。僕はアイドルに疎いのでその曲は聴いたことがなかったけれど、とりあえず「うわ、ずりい!」と顔を歪めておくと、友達は「だろっ!」と満足げに笑い、僕の肩をポンポン叩いた。
カラオケにも行きたかったけれど、その何倍も、これから朝比奈さんに会うのが楽しみだった。もしかしたらそのままデートとか行けるかもしれない。もっとお金を持ってくるべきだったかな、などと考える。
荷物をまとめるふりをしてしばらく教室にとどまり、友達が去ったのを見計らって、約束の体育館裏に向かった。教室を出てから一度トイレで髪型を整えたけれども、階段を降りるうちにまた乱れてしまったので、一階についてからまた直した。
約束の桜の木の下にたどり着くと、朝比奈さんの姿はまだ見当たらなかった。
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