2

1/1
前へ
/12ページ
次へ

2

「香取ー! カラオケ行こうぜ!」  帰りのホームルームが終わるなり遊びに誘ってきた友達に対し、僕は心苦しくもかぶりを振った。 「ごめん、今日はちょっと用事あるんだ」 「用事ってなんだよ。彼女でもできたのか?」 「そうじゃないよ」  、そうじゃない。  頭の中でそんな言葉がよぎり、にやけるのを必死に我慢した。 「しょうがねーな。今日みんなであの曲合唱するから香取もって思ったのに」  その後友達が告げた曲名は、最近流行っているアイドルの新曲らしかった。僕はアイドルに疎いのでその曲は聴いたことがなかったけれど、とりあえず「うわ、ずりい!」と顔を歪めておくと、友達は「だろっ!」と満足げに笑い、僕の肩をポンポン叩いた。  カラオケにも行きたかったけれど、その何倍も、これから朝比奈さんに会うのが楽しみだった。もしかしたらそのままデートとか行けるかもしれない。もっとお金を持ってくるべきだったかな、などと考える。  荷物をまとめるふりをしてしばらく教室にとどまり、友達が去ったのを見計らって、約束の体育館裏に向かった。教室を出てから一度トイレで髪型を整えたけれども、階段を降りるうちにまた乱れてしまったので、一階についてからまた直した。  約束の桜の木の下にたどり着くと、朝比奈さんの姿はまだ見当たらなかった。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

37人が本棚に入れています
本棚に追加