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 お供えを供えたら、ロウソクに火をつける。  マッチを久々に使うので、火がなかなかつかない。ロウソクに火がうつらない。ロウソクは大小、不揃いだ。小さいロウソクが一本残っていたので、ここで使いきる。以前に買っておいた、墓参りセットの太めのロウソクは一本だけ使う。誰も参りに来ないから気にしない。線香にも火をつけた。  数珠を手にかける。黒く大きな玉を肌に感じる。合掌して題目を唱える。母さん、妹、掃除できたよ。春分の日にお参りできたよ。  この墓の中には、じいちゃん、ばあちゃん、母さんと妹がいる。墓の面倒をみるのが俺の義務、生きる理由。そして、いつか俺もここに入る。  そう言えば、春分の日に墓参りしたことを、この墓、今の新しい墓に改築した人に報告しておいた方がいいかもしれん。何もしていないと思っているかもしれん。  墓の写真を撮る。写真を送信しようとしたが、その人はLINEもメールも持っていない。ショートメールでは写真が送れないので、「今朝墓参りしました」とだけメールする。  お供えや線香、ロウソクを片づけていると、スマホが鳴った。 「もしもし、父さん」 「今、電話いい?」と父は言った。「墓参りしてくれたんやな、ありがとう」 「いいえ、どういたしまして。今、墓の前にいる」  それが俺の役目だろう。あんたはしない。できない。だから、死んだあんたの骨を納めるために、墓を直した。死んだあんたを焼いて、骨を納めるまで、俺は生きなくては。 「どう、元気?」  病気で死にそうなら、また大阪まで行かねばならぬ。 「まあまあ。WBC観てた」  そうか、野球中継の時間か。 「今、聞いていいか。お前がくれたガン保険やけど、保険料の納付のお知らせがめちゃくちゃ来るんやけど」 「保険料はちゃんと払ってるはずだけど。年2回引き落としで、口座に残高はあるはずだから」 「でも来る」 「わかった、確認する。元気でね」  本当に確認するかどうか、わからない。やる気がしない。電話を切った。  片づけた荷物を車に積みこむ。  車を出すときに、平松愛理のアルバムをカーステレオでかけた。一曲目がよくて、その歌詞に、今書いている小説のエンディングのヒントかな、という発見があった。  主人公の生きづらさを救ってやらなきゃ、小説はハッピーエンドにならない。でも、俺が俺自身の生きづらさをどうにもできないので、人の生きづらさを救えるわけがない。  救いは見つからないけど、それを探しにとりあえず出かけることが、自分らしさだ、というラストは「アリ」じゃないかな。 <FIN>
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