今日、僕は桜を嫌いな理由に終止符を打つ。

　節目で撮る記念写真に桜が写っているのを、僕は見たことがない。

　保育所への入所式、まったく覚えはないが、母に抱っこされた僕は不機嫌に口を尖らす。桜の存在すらまだ分かっていないが、写真に桜は写っていない。

　幼稚園への入園式、空模様が怪しいのが写真から伝わるほどに薄暗く、雨が降っていなかったことが奇跡だと安堵の表情をする両親の笑顔。ここにも桜はない。

　小学校入学式、季節外れの雪が降っていた。
桜は誰が咲くもんかと意地を張っているように蕾のまま固く閉じられていた。だけど、僕だけは一年生になれた喜び溢れる満面の笑顔。

　中学入学式、前日春の嵐が吹き荒れて、当日は晴天と、天候には恵まれたものの、桜はほぼ葉っぱ。それでも、僕は中学への期待と不安に胸を膨らませていた。

　高校の入学式までくると、もはや諦めるしかない。写真はもう撮らなかった。
　そんな、桜に縁のないまま大人になった僕は、運命的な出逢いをする。