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「……でんぶ、て言う名前ですか?」
そっと、足元の猫を撫でながら聞く。ゴロゴロと喉を鳴らして気持ち良さげな表情をするから、ますます撫でたくなる。
「はい、佐倉でんぶです」
「さくら……でんぶ……さくらでんぶ?」
頭の中に、鮮やかなピンク色の甘い粉末を思い浮かべた。
「そうです、そうです! あたし、佐倉茉里って言います。この子は、佐倉でんぶ」
「……佐倉……」
でんぶは飼い主の彼女そっちのけで僕の膝に乗り上がると、丸まって目を閉じてしまった。
「すごい。でんぶが家族以外にこんなに懐くなんて。あの、良かったらお名前、教えてくれませんか」
恥ずかしそうに頬を桃色に染めて聞いてくる彼女が、可愛いと思った。
「……朔良」
「え?」
「吉田朔良……」
小さく答えた僕に、彼女の目が見開く。
「さくら?」
ふと、真上に視線を送った彼女は、もう一度僕を見て微笑んでくれた。
「素敵な名前!」
「あ……いえ」
朔良なんて名ばかりで、桜と縁のない僕は桜が嫌いだ。
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