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「あたし、苗字が佐倉だから、さくらって聞くと妙に親近感が沸いちゃって。春の満開の桜も大好きなんです」
一瞬、大好きと言った彼女の言葉が、自分に向けられているんじゃないかと錯覚してしまって、上った熱が額まで熱く感じた。
「あ! す、すみません。急にこんな話……別にどうでもいいのに……」
慌て始める彼女が、本当に可愛いと思った。
「ここ、座りませんか? 天気もいいし、でんぶも寝てしまったみたい。なにかお話でもしましょうか」
「……はい」
青く澄み渡る空を眺めて、まだ天辺まで登りきらない太陽に目を細める。
でんぶの呼吸のリズムが、僕の心を穏やかにしてくれる。こんなに桜の木の下が居心地良いのは初めてかもしれない。
彼女と話す時間は、僕にとって人生初めて、桜を嫌いだと思わせないかけがえのない時間となった。きっとそう思えたのは、でんぶが僕に懐いてくれたおかげだろう。
桜を嫌いだった僕が、少しだけ晴れやかな気持ちで桜を見上げることができた瞬間でもあった。
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