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「あ、花びら」
そっと、彼女の細くて綺麗な指先が僕の頭に触れた。摘んだ花びらを見せて笑う彼女に、失恋したばかりの僕は、もう恋の始まりに気がついていたのかもしれない。
「ありがとう……あの、また、会えますか?」
「え!」
僕の言葉に驚いた彼女。初対面の女性にこんな事を言うなんて、と、一気に頭まで熱が上る。とっさに、目を伏せてしまった。
視界に、花びらがちらついた。
「ぜひ、また」
しっかりとした口調で、彼女は笑顔をくれた。風で桜の花びらが彼女の周りで舞い踊る。初めて桜が綺麗だと感じた。いや、桜じゃなくて、彼女の笑顔が、綺麗だったんだ。
今日、僕は結婚する。
僕の奥さんになる人は、佐倉茉里ちゃん。
結婚式で流すお互いの生い立ちムービーは、僕が作成した。
茉里ちゃんの生い立ち写真には、節目節目で満開の桜の木の下で映る、いつの時代も可愛らしい笑顔があった。
だけど、僕の生い立ち写真には桜の写真はほぼなかった。式という式では、桜にとことん嫌われていたのだから。
僕だって、桜を嫌いだと思っていた。
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