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「早瀬さんって、中学はどこに行きたいの?」
火曜日。
校庭のゴミ拾いをしながら尋ねると、彼女は即座に「舞浜女学院」と答えた。
舞浜女学院。県内でも屈指の名門校だ。
いわゆるお嬢様学校で、多くの著名人が在籍していたことでも有名である。
「そっか、舞浜女学院にいきたいんだ」
「できれば推薦入試でね。あそこ、偏差値高いから」
「早瀬さんなら、普通に受験しても受かると思うけど……」
「でも絶対じゃないでしょ? 推薦だったら確率上がるし、仮に落ちても受験すればいいし。要するに二段構えね」
やっぱり彼女は計算高い。そこまで考えて、学級委員長をやっているのか。
でも、それほどまでに行きたい舞浜女学院には何があるのだろう、とちょっと興味を持った。
「で、大宮くんは?」
フェンス際に落ちているティッシュを拾い上げて、彼女が尋ねる。
「僕は……まだ決めてない。身の丈にあった中学に行くと思うけど」
「じゃあ、一緒に受けない? 舞浜女学院」
なんでだよ、と思った。
「僕、男なんですけど……」
「女装すればいいじゃない。女の子みたいな顔なんだし」
冗談とも本気ともつかぬ顔でクスクス笑われた。……冗談なんだよね?
「中学受験なんて一度も考えたことないなぁ。だって僕たち、まだ小5だよ?」
「遅いくらいよ。他の子たちは高学年になったと同時に目標を定めてるわ」
それは彼女のような人種だけだろう。
普通の小学生は毎日ゲームしたりマンガ読んだりだらだら過ごしながら、6年生になった時に「さあ、どうしようか」ってなるものだ。たぶんだけど。
「早く、行きたい中学校見定めときなさいよ」
「う、うん……。でも早瀬さんは、どうして舞浜女学院に行きたいの?」
「私?」
「だって、そこまで行きたいんなら、何か理由があるんでしょ?」
「うーん、そうねえ。笑わない?」
「うん、笑わない」
「私、女優になりたいんだ」
「じ、女優?」
「そう、女優。歌って踊れて何でもできるマルチな女優」
予想外の答えに若干戸惑う。
「それと舞浜女学院とどういう関係があるの?」
「あそこはね、多くの女優を輩出する学校でも有名なの。一般教養だけでなく、日本舞踏やパーティーでの礼儀作法も教えてくれるのよ」
「へ、へえ……」
「だからね、オーディションなんかで舞浜女学院出身というだけで、けっこう目にとめてもらえたりするんだって」
「そうなんだ」
「それに小学校の時に学級委員長をやってました、なんて言えたら最高のアピールになるじゃない」
そこまで計算してるだなんて。
僕は彼女の将来を見据えた人生プランに舌を巻いた。
「じゃあ、何が何でも行かなきゃね、舞浜女学院」
「うん、応援してて。あ、でもこのことは内緒だからね」
「わかってるよ。そんな下心がバレたら内申書に響くもんね」
「そうそう、下心がバレたら内申書に……って、下心ってなんやねーん!」
エセ関西人のノリでツッコみを入れる早瀬美鈴に僕はその時、ほんのちょっぴり好意を抱いた。
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