桜の思い出リフレイン

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 それから1年間。  僕らは二人でずっと学級活動を続けた。  お互いに励まし合い、助け合い、笑い合いながら充実した学校生活を送った。  思えばこの頃の僕は今までで一番輝いていたと思う。  同い年の女の子と気兼ねなく話ができ、他愛ないことで笑い合えたのは、この小学5年生の時くらいだけだ。  ずっとこの状態が続けばいいとさえ思ってた。  けれども。  小学校6年生にあがると同時に、先生から衝撃的な事実を告げられた。  早瀬美鈴が親の都合で転校することが決まったということを。  急な転校で、挨拶もそこそこにすぐにも旅立ってしまうということを。  それも自転車で行けるような近所ではなく、県外の遠くの場所に引っ越すのだそうだ。  僕はそれを聞いてショックを受けた。  あれだけ舞浜女学院に行きたがっていた彼女が、この時期に転校を余儀なくされるなんて。  推薦入試を受けるために頑張ってやってきたことが、転校によって水の泡になってしまうなんて。  みんなは多分知らなかっただろうけれど、本人はどれだけショックだったか。 「今まで仲良くしてくれてありがとう、お世話になりました」  しかし教壇の上でさっぱりとお辞儀をする彼女からは、そんな様子は微塵も感じられなかった。  弱さを見せまいとするその姿が、僕にはとても痛々しかった。  その日は、転校する学級委員長のためにみんなで寄せ書きを書いた。  僕も何か書いた気がするけれど、もう覚えていない。  ほとんど放心状態だったからだ。  とりあえずみんなで書いた寄せ書きは放課後、荷物を抱える彼女に渡された。  彼女はそれを受け取ると、一人一人にお礼の言葉を述べ別れを告げた。 「大宮くん、学級委員長の座はあなたに譲るわね。私の代わりに頑張って」  彼女は、うつむく僕に精一杯の明るい声でそう言ってくれた。  でも僕には何も答えられなかった。  せっかく仲良くなれたのに。  あと1年一緒にいられると思ってたのに。  突然の転校で頭が真っ白になっていた。  うつむいたまま彼女の言葉を黙って受け止めていると、彼女はそっと顔を近づけてきて耳元でささやいた。 「ねえ大宮くん。あとで柏木公園に来て。伝えたいことがあるの」  僕はその時、ようやく顔をあげて彼女を見つめた。  けれども、彼女はすでに次の生徒に別れの挨拶を告げていた。
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