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下校の時間になり、みんなが早瀬美鈴にさよならを伝えて帰って行く中、僕は一足早く柏木公園に向かった。
小学校の裏手にある大きな公園で、この時期は桜が満開になることで有名な場所だ。
ちょうどこの時も、春の陽射しが温かく桜が満開だった。
しばらく満開の桜を眺めていると、タタタタと早瀬美鈴が大きな荷物を抱えてやってきた。
「大宮くん、お待たせ!」
「早瀬」
早瀬美鈴は近くの桜に荷物を下ろすと「はあ、疲れた」と大きくため息をついた。
てっきり落ち込んでるものとばかり思っていたけれど、いつもの彼女で少し拍子抜けする。
「早瀬……」
「ごめんね。大宮くんに一言、どうしても謝りたかったの。転校の事」
「う、ううん、別に早瀬のせいじゃないじゃん。でもビックリした。急すぎて」
「だよね。私も知ったの先週だったから」
先週。つまり数日前だ。
「もう……決まったことなんだよね?」
「うん」
「舞浜女学院はいいの?」
「よくはないけど……。でもしょうがないよ」
「早瀬だけ、ここに残るなんて……できないんだよね?」
「できないよ、そんなこと。それに何度も何度もお父さんとお母さんに伝えたわ。私が舞浜女学院に行きたいこと。この学校が好きなこと」
「女優が夢だってことも?」
「それは、言ってない。恥ずかしいもん」
「別に恥ずかしいことじゃないと思うけど」
「絶対笑われるし」
「そ、そうかな?」
子どもの夢を聞いて笑う親なんているのだろうか。
「それにうちの両親、厳しいから。もっと現実見ろーって怒られると思う」
「そっか。でも僕は早瀬ならなれると思うよ、女優に」
「ふふふ、やっぱり大宮くんて優しいね」
早瀬美鈴は満面の笑みで振り返った。
今まで見てきた彼女の中で、一番の笑顔だと思った。
「ありがとう、大宮くん。この1年間すごく楽しかった」
「僕もすごく楽しかった」
「大宮くんのおかげで、いろんな経験ができたわ」
「僕もだよ」
「一人じゃ学べないことをたくさん学ばせてもらった。クラスメイトの大切さ、一緒に誰かと活動する楽しさ、将来の夢を気兼ねなくしゃべれる安心感」
「こんな僕でも早瀬のためになったなら、嬉しいよ」
「それに……誰かを好きになるって気持ち……」
「早瀬?」
早瀬美鈴は何か思いつめたようにうつむくと、背中を向けた。
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