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ひらひらと舞い散る花びらを眺めながら、僕は早瀬美鈴のことを思い出していた。
いまだにロングヘアーの彼女の後ろ姿が忘れられないということは、もしかしたら僕にとってあれは初恋だったのかもしれない。
この15年間、何人かの女性とお近づきになれたことはあっても、お付き合いにまで発展したことはなかった。それはきっと、心のどこかで彼女への想いを引きずっているからなんだと思う。
女優という手の届かない所まで行ってしまった早瀬美鈴。
彼女への想いを断ち切るには、僕も新しい恋を見つけるしかないのかもしれない。
「ねえ、知ってる? ファーストキスってレモンの味がするんだって」
その時、耳に懐かしいフレーズが飛び込んできた。
優しくて、温かくて、そして記憶の中にずっと残っていた声で。
目を向けると、そこには……
彼女がいた。
あの早瀬美鈴が、桜の木の下に立っていた。
なんで?
どうして?
突然のことで頭が混乱する。
「は、早瀬……なの?」
「大宮くん。久しぶり」
白いストールを首に巻きつけ、大人っぽい衣装で登場した彼女に目が釘付けになる。
ロングヘアーだった髪型はセミロングへと変わっているものの、その表情は当時の早瀬美鈴のままだった。
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