尾久の栄依子ちゃんシリーズ 本町通りのミルクホール

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栄依子の家から 都電通りまで出て、少し行く。 本町通りの角は いっぱい飲み屋や食べ物屋があるので明るい。 まだ「日中戦争」中で アメリカの空襲も無く 「灯火管制(とうかかんせい)」も無かった。 栄依子も豊子も 「ミカサ」に 夜、入るのは初めてだ。 ドアには 内側から格子柄のカーテンがかかり 両脇に三角に開いて留めてあるので 中が見える。 花の咲いたようなランプの 幾つも点った店内は 昼間より明るく キラキラとしている。 豊子が、オズオズ扉を開けると 二十歳くらいの女が出てきた。 昼間は居ない女給だった。 聴いたことのない外国の 音楽が流れていた。 出てきた女は 目の覚めるような緑の地に 紅色と黄の大きな水玉がカスリになった 派手な明仙を、きちんと着ていた。 髪は女学生のように 長い三つ編みを襟足から冠のように頭に巻き付け 「マーガレット」に結い 肩にフリルのある白いエプロンが 古風で可愛らしい。 「あら、おかみさん 可愛いお客さんですよ」
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