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「お疲れっしたぁッ!」
「おー、お疲れさん」
部活の後、俺はいつもマッハで着替えて、一番に部室を飛び出す。
一年生が先輩たちを差し置いて早く帰るなんて、ルール違反だってわかってるけど、これだけはどうしても譲れない。
だって、俺を待ってくれてる人がいるから。
「佐藤先輩……!」
校門の前で佇んでいた細長いシルエットが、ゆっくりとこっちを向いた。
日が傾いて薄暗くなった視界を睨むように目を細めて、でもすぐに俺に気づいて、手を振ってくれる。
「理人」
笑顔と一緒にとろけそうな甘い声で俺の名前を呼んで、先輩はそのまま必死に走る俺を見守ってくれる。
鞄から飛び出したままのタオルに足を取られて転びそうになるけど、俺は足を止めない。
早く、先輩のところへ行きたい。
ほとんど飛び込むように先輩の目の前に滑り込んだら、先輩は、俺のくしゃくしゃになった髪をもっとくしゃくしゃに掻き回しながら、笑った。
「今日もお疲れ様」
「うん!」
「そんなに走って来なくても待ってるのに」
「そっ……それは、だって……」
「ん?」
「ちょっとでも長く……先輩と一緒にいたいもん……」
高校生の恋愛なんて、窮屈なことばっかりだ。
学年が違うから全然会えないし、会えても絶対に誰かが一緒にいるし、やっと授業が終わったと思っても部活があるし、部活が終わって会えたと思ったら、もう空が暗い。
早く、大人になりたい。
大人になったら、朝起きた時だって、夜寝る時だって、先輩と一緒にいられるのに。
「……かわいいなあ、もう」
「えっ?」
「なんでもない。行こうか」
くすりと笑って、先輩は右手をパーにして俺に差し出した。
ちょっと迷ってから、大きな手のひらの上に自分の手を載せる。
そうしたら、指と指が交互に絡みあった。
これが『恋人繋ぎ』だって教えてくれたのは、佐藤先輩だ。
触れ合う体温が、とても気持ちいいことも。
「もうすぐ春休みだね。理人は部活?」
「ん……あ、でも、毎日じゃない!だからっ……」
「うん、デートしよう」
だから、先輩に会いたいーー思いが言葉になる前に、あっさりバレた。
嬉しいけど、恥ずかしい。
なんでだろう。
先輩には、いつも考えてることがすぐに伝わってしまう。
「どこ行きたい?」
「えっ……」
「もうすぐ桜も満開になるし、花見とかもいいかも」
「お花見……」
「弁当と……もちろんお菓子も持って。どう?」
「うん……」
佐藤先輩とお花見。
お弁当とお菓子とお団子を持って、桜の木の下に敷物敷いて、二人で隣同士に座って、降ってくる桜の花びらを捕まえたり、膝枕したり。
絶対に楽しいし、絶対に幸せ。
でもーー
「ん? 他に行きたいところあった?」
「行きたいところっていうか……」
やりたいこと、っていうか。
「佐藤先輩……」
「ん?」
「俺、先輩の家……行きたい」
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