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花見
あれはわたしがまだ小学生のときだった。
『明日は久しぶりの休みだし、百花も一緒に花見に行こうか』
春休みでひとり退屈していたわたしは、お父さんの提案に大喜びで飛び跳ねながら答えた。桜の花を見ることよりも、お父さんとお母さんと一緒にピクニック気分で出かけることが楽しみで仕方がなかった。
その日はお弁当の準備をするお母さんを手伝ったりてるてる坊主を作ったり、わくわくしながらも忙しく過ごしていた。
だけど。
翌朝、ザァザァという雨音に、目を開く前からわたしの心は曇り空より真っ暗になった。
『残念だけどまた今度ね』
そんな言葉に頷くしかないのは分かっていたけれど、それでも簡単に納得なんてできない。『お花見行きたい』と泣いて駄々をこねるわたしに、お母さんは困った顔をしてお弁当を作ってくれた。お父さんはいたずらめいた笑みを浮かべて折り紙で小さな花をたくさん作ってくれた。
ピンクや赤の折り紙で彩られた壁を見上げながら食べるお弁当はとても美味しかった。『次はちゃんとお花見しようね』と言う両親に、『次もおうちがいい』と勢い込んで言うと、ふたりとも嬉しそうに笑っていた。
その言葉の通り、次の年もその次の年も、わたしたちは家でお花見をした。お父さんの仕事が忙しくて行けなかったのもあるけれど、家の中でお弁当を食べながら見上げる折り紙の花は、本当にきれいで大好きだった。
だから、わたしは本物の桜の木を見上げての花見をしたことがない。
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