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一人の警官が、メガホンを持ちレストランに入ってきた。
「死因は毒ではなく、アレルギーによるものだった。皆、安心して帰ってよい」
原因―――それはアレルギー。被害者、川崎拓人は重度の卵アレルギーだったようで、シュークリームに含まれていた卵白と卵黄に反応してアナフィラキシーショックを起こし、死んだ。
ほっ、と安堵のため息が周りに広がっていく。
危うく殺人の嫌疑をかけられる可能性があったんだ。皆がほっとしたことに疑問はない。
ただ、僕には緊張が走った。
あれほどまでに女性が主張していた、このレストランのアレルギー対応力。なぜ、手違いが起こってしまったのか。
「毒入りでもなんでもなかった。事故だ。もう帰っていただいて構わない。」
警察はそういうけれど。
「本当に事故なのだろうか」
僕はそう呟いた。
その声を聞きつけた警官が、一瞬眉をピクリと上げた。
「と、いうと?」
警官が僕の言葉に反応したことにより、僕の周りにいた人たちが、僕のことを睨んでくる。
既にこのバイキングエリアに、5時間も拘束されているんだ。一刻も早く帰りたいと思う人が山ほどいる。
でも、まだ帰すわけには行かない。だって、犯人がいるかもしれないんだから。
「先程、アレルギー持ちにとっては一度も食べたことのない料理を、いきなりガツガツ食べ始めるのは自殺行為だ、とおっしゃいましたね?」
「はい。」
女性が答えた。
それでは、これではどうだろうか?
「もとから知っている料理人――信頼している料理人――から、この料理にそのアレルギー物質は入っていないと言われたら…?」
「…それは。…信用してしまいますね」
だとすると、被害者はここの料理人をもとから知っていたのではないだろうか。
ただ、疑問が残る。ここの料理人は誰一人として、被害者が卵アレルギーを持つことを知らなかったのだ。
なぜだろうか?
普通、アレルギーの問い合わせをすると料理長に電話が行くと聞いた。厨房の様子を1番よくわかっているからだ。
と、いうことは。
下っ端の料理人が、客がアレルギー持ちであることを隠すことは不可能なのである。
脳内に、恐ろしい推理が浮かび上がってしまった。
「料理長が、被害者と元から知り合いだった…そしてそのことをどの料理人にも伝えず、被害者には卵が入っていないと嘘を付き、わざと食べさせた―――」
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