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1.賭け事はほどほどに楽しむ……できるか!
紅星妃が皇帝の寵をいただいたらしい。
その噂は後宮内を駆け巡り、官吏たちの耳にも届いた。
それからというもの。
「あーっ!もう、嫌だ!」
わーっと叫んで机に突っ伏した紅星の頭の上にばさばさと手紙の束が落ちてくる。
どれも高級な錦を貼った入れものに収められ美辞麗句が連ねられている。
晴雪宮の中には、贈り物の山ができつつあったが、そのどれもが皇帝の寵をいただいたこの晴雪宮の主、紅星妃への賄賂なのだった。
「お覚悟が足りませんよ」
ふふっと笑いながらお茶を持ってきたのは汎娘。この晴雪宮を取り仕切る筆頭侍女。
あらゆる儀礼に通じていていつ見ても、一分の隙もない。
その裾にまとわりつくようにしているのは、緑輝公主。
竜の耳という紅星の生まれ故郷の者に現れる特殊な聴覚能力を持つ。そのせいで人のことばが聞き取れなくて暴れることもあったが、今は耳当てのおかげで落ち着いている。
「ま、にぎやかなのはいいけどさ」
紅星はこの陶玉国の後宮に下女として山深い里から出稼ぎに来た。
そして村に伝わる鳥を自在に操る技を見た少年皇帝鶺鴒に、今ではこき使われている。
しかし身分は下女から妃に。
さらに皇帝の寵をいただいた……いや!寝所に一緒にいただけ!それだけでなにも得てない!
「まあ口づけはしたけどさ……」
紅星のつぶやきを聞いて汎娘はふふっとまた笑みを浮かべた。
「なんだよ!」
いいえ、と完璧な作法で茶器を前に置く。
「次のお客様がお待ちです。どうやら朴鈴の主らしいのです」
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