登城

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登城

 翌日の朝。私は朝食を食べると、近衛騎士団の宿舎には向かわずに、すぐにギルバート殿下の執務室へ向かった。昼までに行かないと、仕事的にも物理的にも首がとぶ。  執務室に到着すると、少しだけ扉が開いていた。私は姿勢を正すと声を張り上げる。 「失礼致します。近衛騎士団第3部隊のジョゼフ・クラウドです」 「入れ」 「早かったな」  ギルバート殿下は書類仕事をしていたのか、窓際にある机の上には書類が散乱していた。 「部屋へ案内する。申し訳ないが、昼まで仕事なんだ。待っててもらえるか?」 「承知致しました」  私が敬礼をすると、殿下はクスクスと笑いながら隣の部屋へ案内してくれた。 「今は、ここが私の部屋になっている。退屈かもしれないが、ここで待っていてくれ」 「‥‥‥はい」  殿下は慌てて隣の部屋へ戻っていった。私が殿下の部屋へ居てもいいのだろうか‥‥‥そう思いながらも部屋で待つことにした。 *****  しばらくすると、部屋の扉が開いた。部屋へ入ってきた殿下は驚きつつも、手に持っていた紅茶セットとサンドイッチをテーブルの上に置いた。 「ずっと立って待ってたのか?」 「はい‥‥‥殿下の部屋で勝手に座るのも気が引けまして‥‥‥任務の時はいつも立っておりますし、問題ありません」 「問題ありありだよ‥‥‥とにかく座って。紅茶冷めちゃうから」  殿下は入口近くにあるソファーへ座ると、テーブルの上にあるポットを使って紅茶を淹れていた。私はソファーに座ると、殿下の淹れてくれた紅茶を飲んだ。 「‥‥‥美味しいです。すごく」 「良かった。よかったら、サンドイッチも食べて‥‥‥嫌いなものとか無いんだよね?」 「はい、ありません。ありがたく、いただきます。あの‥‥‥」 「何?」 「私は殿下が、こんなに美味しい紅茶を淹れられることの方が驚きです」  私がそう言うと、殿下は笑っていた。 「ハハッ‥‥‥そうだよね、ごめん。今日来たのは『婚約の件』についてだよね。なんて聞いてるの?」 「昨日、宰相閣下が実家にいらっしゃいまして、「ギルバート殿下と婚約するように」とだけ言って帰られました」 「うわっ‥‥‥それ、断れないパターンだよね。ほんとゴメン。私のせいで‥‥‥」 「いえ、殿下のことを知っていましたし‥‥‥なにかの間違いだろうと思いまして‥‥‥」  殿下は困ったように金髪の髪を掻き上げると、青い瞳で私を見つめながら言った。 「いや、間違いではないよ。確かに私は、君が気に入っている。その‥‥‥父上に好みのタイプを聞かれて咄嗟に君の名を上げてしまったんだ‥‥‥浅慮だった。申し訳ない。さぞかし驚いただろう?」 「はい。父が‥‥‥特に驚いておりました」 「父上が勝手にやったこととはいえ、すまなかった。後で侯爵家へ謝罪の手紙を送ろう」 「はい。ありがとうございます。では私は、これで失礼します」 「えっ?! ま、待って」 「‥‥‥はい」 「話があるんだ。紅茶をもう一杯分、持って来るから、少し待っててくれる?」 「‥‥‥承知致しました」  ギルバート殿下は慌てて部屋を出ていくと、すぐに紅茶を入れたポットを持って帰ってきた。
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