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婚約
「私の婚約についてなのだが‥‥‥」
「どうかされたのですか?」
「もともと兄が2人いて、今まで放って置かれてたんだ。上が片付かないと仕方がないと言って‥‥‥だが昨年、2人とも結婚してね。私に、その矛先が向かうようになってしまって‥‥‥」
「それで、私なのですか?」
「いや、何というか‥‥‥噂で聞いているかもしれないが、私は女性が好きになれなくてね。君に出会ったとき‥‥‥言うのが恥ずかしいんだけれど、一目で気に入ったんだ。父には昔、読んでもらった絵本に出てくる『竜騎士』みたいな人が理想だと言ったんだけど‥‥‥そしたら怒られてしまってね。実際に気になるやつはいないのかと聞かれて・・・君の顔が思い浮かんだんだ。君は『竜騎士』に似てるから」
確かに私は、絵本に出てくる竜騎士様と同じ黒髪だ。でも何でも倒せる訳じゃない。
「あの、『竜騎士様』ですよね? 私はそんなに格好よくないと思いますが‥‥‥」
「いや、私の中のイメージとピッタリだったんだ。こんな人がこの世にいたのかと思ったよ‥‥‥」
「そんな‥‥‥」
殿下の真剣な、熱い眼差しに私はどうすることも出来なくなっていた。いつの間にか隣に来ていた殿下は僕の手を握ると言った。
「今日から1ヶ月間、共に過ごし、問題なければ結婚になる‥‥‥そういう慣例でね。隣の部屋が、君が今日から使う部屋になる。後で案内するよ」
「もしかして‥‥‥待ってる間、聞こえきたガタガタした音って‥‥‥」
「うん‥‥‥君の宿舎から家具や荷物は全て運ばせたよ」
まさかとは思っていたが、既に外堀を埋められてるとか?
「ここへ来てくれたってことは、私のこと嫌いでは無いんだよね?」
「はい。ただ恋愛となると‥‥‥あまり考えたことがなくて‥‥‥」
私のいる国では、同性婚が認められている。国民の2割が同性婚だと何処かで聞いたことがあったが、貴族同士ではあまり聞いたことが無かった。
「それならそれで、考えてみてほしい‥‥‥もし、駄目なら駄目で断ってくれても構わないから」
「えっ?!」
「大丈夫だ。私が何とかするから、自分の気持ちと一度、真剣に向き合ってみて欲しい」
殿下は私を抱き寄せると頭を撫でていた。
「ちょっと‥‥‥ドサクサに紛れて抱きつかないでくださいよ」
「‥‥‥すまない」
ちっとも、すまないと思っている感じは無かったが、殿下があまりにも嬉しそうに笑っていたので、『まあ、いいか』と思ってしまった。
殿下は18才なのに対して私は23才。少しは寛容に捉えるべきなのかもしれないが、いきなり婚約は‥‥‥正直どうかと思う。
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