突然

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突然

「我が名は、王の名代で参った宰相のベンジャミンと申す。今から読み上げる文章は、王命である。心して聞くように」 「・・・・・・」 私は実家に里帰りした際、偶然居合わせた関係で、父様と母様の隣で頭を垂れて宰相閣下の話を聞いていた。 「我が息子、第3王子のギルバード・シュテファンをクラウド侯爵家が3男、ジョゼフ・クラウドの婚約者とする」 「・・・へ?私ですか??」 宰相閣下は、ギロリとこちらを睨むと「何か異議があるのかね?」と言った。 「あっ、いえ・・・私は男ですよ?」 「存じておる」 「これ、口を慎みなさい」 父に窘められて私はそれ以上、何も聞くことは出来なかった。 「以上だ。荷物をまとめて明日、登城するように」 「え、明日ですか?明日は護衛の仕事が・・・」 「心配ない。城での護衛は、配置換えを伝えてある。明日、昼までに登城するように。では、失礼する」 宰相閣下は、もうこれ以上ここにいる用はないといった感じで、入口から出ていった。父と母は呆然とした様子で立ち尽くしている。 「何と言うことだ・・・」 我に返った父が、頭を抱えながら近くにあるソファーへ座った。 「何も聞いていなかったのですか?」 「当たり前だ。普通は根回しとかがあるはずなのだが・・・」 「ジョゼフ、貴方はなにか聞いていないのですか?」 「私は、何も・・・」 「一体、どういうことなんだ?」 父は完全に混乱しているようだった。母は父のそばに来て、落ち着くようにと手を握っていた。 「ジョゼフ、ギルバート殿下と面識はあるのか?」 「昨年、仕事で・・・怪我をした騎士の代わりに3ヶ月間、ギルバート殿下の元で護衛をしておりました」 「それで恋仲に?」 「いえ、そんな関係では・・・とても気さくな方でしたが、そんな感じではありませんでしたよ」 「・・・その時に、気に入られたのか?」 「たぶん、何かの間違いではないかと・・・その、可能性のほうが高いかと思われます。」 「「・・・・・・」」 父と母は顔を見合わせると、憐れむような目で私を見た。 「彼には、『男色家』という噂がある。逃げるなら今だと思うが・・・どうする?もし、どうしても嫌ならば他国へ逃がすことくらいは出来ると思うが・・・申し訳ないが、それくらいの事しか私には出来ない」 父が申し訳無さそうに項垂れていた。王命に背いたら、侯爵家は取り潰しになる可能性もなくはない。取り潰しにならなくても、何らかの措置はあるに違いなかった。そんな苦労を父と母にさせるわけにはいかない。 「いえ・・・何かの間違いの様な気がします。婚約ですし、殿下と話し合ってみますよ」 「そうか・・・」 父は渋面を作っていたが、ひとつ溜め息をつくと、母と部屋へ戻っていった。
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