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無条件に自分の存在を肯定してくれるような温かさを初めて感じたのがいつだったか分からない。きっとそれは、ボクがボクであると認識したときと一緒のことだったから。
そんな温もりは時折ボクから離れてしまう。まだ何も感じるはずのない心にも寂しさを覚えたけれど、再び温かさに包まれるとそんな感情も忘れて微睡みの中に意識が消えていく。
そんな時間をどれだけ過ごしていただろう。
いつものように温もりが離れてしばらく経った時。なんとなく、いつもよりも早く帰ってきてくれた気配がボクの体を小突いた。
普段は優しく小突かれるのが、今はまるでこちらの反応を確かめるような突かれ方だった。
(何かがおかしい)
そう感じても、まだ何者でもないボクにはただじっとしていることしかできない。初めて感じる恐怖に固まっていると、不意に突かれなくなった。けれど、ほっと安心する間もなく何かにボクのすべてが持ち上げられるのを感じた。
そのまま何かが羽ばたく音に、感じた事のない冷たさが全身にしみ込んできた。
(イヤだ、イヤだイヤだイヤだ!)
何が起きているのかわからずただただ恐怖に身をすくめるばかりだったボクは本能のままに体を動かした。
必死に、何度も、
何度も何度も、繰り返し、
この恐怖から逃れようともがき、目の前にできた穴から逃げ出そうと身を乗り出した瞬間感じたのは一瞬の浮遊感
(あ……)
声にならない声を残して、未成熟な雛は闇に呑まれて見えなくなった。
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