消えたいシグナル

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知らないおじいさんとおばあさんが、ショーケースの中のドーナツを楽しそうに選んでいる。 背の高い店員は、客と談笑していた。友達同士なのだろうか?客の方は手首に包帯を巻いていた。 さっきの女の人達は、まだおしゃべり。 急に自分だけが透明になった気がした。 ここは俺以外の人達だけの世界。 まるで誰にも俺のことが見えてないみたい。 馬鹿みたいな考えはやめよう。 どれだけ憂鬱でも、自殺するような勇気はないんだ。それよりカフェオレのおかわりでもしようか? 「おかわりいかがですか?」 先ほど客と談笑していた店員が、ちょうど保温ポットを手に持ってやってきた。 背が高い割に優しい声色。 「じゃあ下さい」 新しいカップにカフェオレをついでくれた。 「ごゆっくり」 ありがとうございます。のひと言も言えない。 ありがたかったのに、感じの悪い客だと思われただろうな。 また憂鬱。 お花見の話をしていた女の人たちが立ち上がって、店を出ていった。 静かになるな。と思ったのに、なぜか1人だけ戻ってきて俺のところへ来た。 「タクミ君だよね?私のことわかるかな?お母さんの友達の森本です」 びっくりした。母さんの友達だったなんてわからなかった。
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