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第二話『まさか』
「どうぞ」
一拍置くと扉が開けられそこには小説の中で存在していたアンゴット=カネルーの姿があった。
このように物語の世界の住人を目の前で見られる事は本当に感動的だ。ここにスミアリアがいれば完璧なのに……いや、今は私がスミアリアなのだ。
私は日記を引き出しの中に片付け、そのまま地面に広がったスカートを上品にかき集めてからアンゴットを部屋に招き入れていた。これなら彼にスミアリアの姿が下品であると思われる事はないだろう。
「スミアリア……床についてどうしたんだい? 立てないのか?」
案の定、アンゴットは悲痛な面持ちでこちらを優しく見下ろすとそう言葉を告げる。
私は小さく頷き「はい」と言葉をこぼした。現に立ち上がれないのは間違いようのない事実だからだ。
私の返答を聞いてアンゴットは素早くこちらに足を運ぶ。彼の後ろにはお付きの者がおらず、彼は急いで一人ここに訪れたようだった。息がどことなく切れているのがその証拠だ。
(やば…………)
私はにやけそうになるのを必死で堪える。アンゴットのスミアリアを想う強い愛にまたもや萌えてしまったのだ。
長年二人のカプリングを愛してきた私にとって、これ以上嬉しいものはない。彼は必死になってスミアリアの様子を見にきたのだ。
「実はそうなのです。私足を怪我してしまったみたいで……」
なるべく怪しまれぬようスミアリアらしく淑やかさを意識して声を出す。彼女の真似事をしてアンゴットの気を引くかのような自身の行為に自己嫌悪が襲いかかってくるが、今はひとまず辛抱の時だった。
するとアンゴットは「かわいそうに」と口にしながらスミアリアの頭にそっと手を置く。
(うわあ………地雷……)
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