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目を覚ます。私は目を覚ました事に驚いた。死んだ事を理解していたからだ。なのに何故、生前のような起床時の感覚があるのだろうか。
「目を覚ましたのね!!」
突然聞いたことのない声が私の鼓膜を刺激した。目は開いているが霞んでいてよく見えない。ゆえに聴覚に頼るしかないのだが、どう記憶を思い返してもこのような甲高い女性の声には聞き覚えがなかった。生き返った訳ではないようだ。
では天国だろうか、それとも地獄? 悪さをした覚えはないが基準など分からない。私はぼやける視界の中、声の主の方に目線を向けてみる。
まだはっきりとは見えないが、断片的に見え始めてきた。そしてその顔には、いや、正確に言えばその印象的な装いには見覚えがあった――。
「え……?」
声を発した私にその声の主は勢いよく抱きついてきた。
「ねえ私が誰だか分かる?」
目に涙を浮かべながら中年の女性は私に問いかける。私はその人物の名前をよく知っていた。
「……リリーラ……叔母様」
「……っっ!!!」
私がそう言うと感極まった目の前のリリーラ=エリーモアントは涙を流して震える声で再び問いかける。
「じゃあ……自分の名前はわかる? あなたの名前、言ってみてちょうだい」
先ほどの回答が正解であるなら間違いなく私の予想は合っているだろう。当たってはほしくないが、確認をするためにもこの状況を避けては通れない。私はゆっくりと口を動かした。
「スミアリア…エリーモアント……」
そう告げるとリリーラは心の底から安堵したのか、嬉しそうに微笑み私の手を握った。
「ああ…本当に良かったわ……ありがとう、ありがとう…」
リリーラが感謝する中、私――スミアリアは絶望していた。いや、私は決してスミアリアなどではない。そんな素敵な名前が似合う人物は――――この身体の主だけだ。
そう、私はこの身体の主が誰だかよく知っていた。何故なら彼女は私が大好きな推しCPの一人だからである――。
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