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予想外の提案に驚きつつもだがそれもご尤もな意見であると直ぐに理解する。
確かに、命を狙われた際に護身術があるのとないのとでは生存確率は明らかに前者の方が上がるだろう。
「どの道お前がスミアリアの魂と入れ替わるまで一ヶ月かかる事は確実だろ。それだけ期間があれば一つくらいは身に付けられるはずだ」
「そうか……」
私は前世で運動経験が全くなく、学生時代は体育の度に気分が沈んでいた。外に出たがらないタイプのオタクにはあるあるな話である。
しかし今の状況を考えればそうも言ってはいられないだろう。嫌だからと言う話の問題ではないのだ。
スミアリアとアンゴットの愛のためにここは体を張ってでもやらねばなるまい。
「わかったよエビ。私も護身術覚える。でも誰に教わればいい?」
「アンゴットに事情を話せばあいつも反対はしないだろう。スミアリアに武術を習わせるなんてと言いそうだが、今の中身はお前だしな」
そう言ってエビは水槽の奥の方へと動き出してしまう。どうやらもう話す気がないようだ。私も特に彼に追加で問い掛ける事はなく、そのままベッドに戻った。
今直ぐにでも教えてもらうのが一番いいのだが、足の怪我が完治してからでないと武術を教えて欲しいと口にするのは怪しまれる。
足も治っていないのに武術など身につけられるわけがないだろうとアンゴットに蔑んだ目で見られるのがオチだ。とりあえずは一週間が経って足が治ったと報告をしてから、護身術を習う事にしよう。
そう思い至った私はお腹が空いたことに気が付き、内線でメイドに連絡を入れるのであった。
第九話『護身術』終
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