第一話『状況整理』

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 私は胸に手を当てて深呼吸をする。そうして大きな鏡に映る自分を見た。明確に言えばそれはスミアリアの姿で、私の面影はどこにもない。 (本当に、可愛いなあ)  スミアリアは原作の中で国一の美少女だと言われているキャラクターだ。彼女は特殊な聖女の能力を持っており、しかしその能力が解放されるのは物語の終盤であるのだが、スミアリアは物語の中でも特に愛されたキャラだった。  そんな彼女が、王子であるアンゴットとイチャイチャラブラブしているのが私は大好きなのだ。  しかし鏡に映る自分はどう見てもスミアリアの姿をした私自身であり、本来宿っているはずのスミアリアの魂はここにはない。彼女は一体どこへ行ってしまったのだろう。 (まさか死んだなんて……)  そう考え背筋が凍る。それは本当にやめてほしい。原作は基本的に平和な世界だ。  悪役令嬢が登場する事はあるものの、特に死に直結するような事件はこの物語には存在しない。だと言うのに、彼女が退場してしまったらその概念が覆ってしまう。 (絶対やだ。大丈夫、どこかできっと……)  しかし根拠はない。第一なぜ自分が小説の世界に来たのかも分からないのだ。スミアリアが生きている保証はどこにもない。私が魂を乗っ取って彼女を死に追いやってしまったのだろうか。  そう考えると自分を許す事はできない。推しCPの平和を自分が壊しただなんて、最悪にも程があるだろう。
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