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声量は変わらないのに、恐ろしく力強く響く声が耳朶を殴りつけ、花弁を捕まえていた指先が雑草に埋もれかける植物を指し示す。
「果実と思われているものは花托に過ぎない」
そして、苺もランナーを伸ばしクローンで増えて行く植物だ。
私は彼の表情を凝視した。
言葉にしない言葉の中に、彼が添えた考えを読み取る為に。
「偽果とも呼ばれますね」
勝ち誇った笑みが薄っすらと受かんでくる。
彼は曾祖父のクローンだ。
初期化され、全能性を取り戻した細胞胚に加えられた不老の遺伝子を無視したならば、はっきりとそう言える。
けれど、不老の人間は人なのだろうか。
強く、強く、誰よりも強靭な精神性を備えている彼の心は、果たして人と同じ作りであるのだろうか。
目の前のこの男は、人らしく在ろうとしているのか。
正直、それはどうでも良かった。
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