不如帰の卵を育む

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よく似た性質を持ち、より上位の性能であるならば、今もセイヨウミツバチの利便性を受け入れる様に、人は少し違う特徴など気にも留めないだろう。 誰よりも経験を積んで行き、次々と開拓するべき星に訪れ、望まれた通りに仕事をこなして来た彼の便利さに疑いを抱く者はいない。 「貴方は何人いるのですか」 「沢山とも、私一人だとも言えるね」 含みを持つ言葉に、どれだけの真実が含まれるのか。 クローン胚なら、同じものが幾つも在ったって不思議ではないのだ。 目の前の彼が、本当に曾祖父のクローンなのかを今知る方法は私にはない。 偽物である可能性も捨て切れないのだが、握らされた包みの存在が、私の中で否応なしに大きくなって行く。 私の可愛い息子はもういない。 クローンを作る技術はとうにある。 曾祖父のクローンが、まざまざとその事実を教えてくれた。 だがクローン技術は、未だ民間には大きく開かれていない。畜産や、漁業の一部では実用化されているが、人間相手では様々な法律と倫理観から許されるケースは一部に限られる。 そしてクローンはクローンであり、それ自体が独立した一つの生物だ。
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