不如帰の卵を育む

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元気でと送り出すには余りにも心が無い。血筋として、彼の見知らぬ息子と呼べる存在は一昨年鬼籍に入ってしまい、孫に至っては私が物心つく前に事故で亡くなっている。 それに彼の血統とは言え、受精卵バンクからの卵子提供で生まれた祖父は、この曾祖父のクローンとさえ一世紀以上の歳の開きがあるのだ。少子化故に、シングルで祖父を生んだ曾祖母はどんな考えを持っていたのだろうか。 まったくの他者の全能細胞(受精卵)を受け取り、血縁なき祖父を産み育てて。 だから、君は私の曾孫と言えるねと告げられても、実感は希薄だった。 目の前の男に、父親代わりに私を育てた祖父の面影を認めても。 「君は、よくやっている」 かけるべき言葉を探す私の耳に、祖父に似た声が先にかかり、次いで柔らかな微笑みが添えられた。 「私など、貴方が行ってきた偉業に比べたら、この小さな地球でのほんの一分野に興味を持ったに過ぎません」 私には命をかけて危険な宇宙へ行く勇気はない。せいぜい野辺の草花の研究が関の山だ。 「それに今は多方面への知識はAIに任せ、専攻する分野をより狭く、専門的に受け持つのが学問の主流ですし」 言い訳じみた言葉に気付き、話題を少し前に戻した。
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