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「薄青の桜って、青桜の名前が付けられましたよね。青い花の王様だって意味もあると聞きましたが」
「テラフォーミング中の空の色が、余りに地球とかけ離れているからと開発された桜だよ。ドーム内の人には憩いの色だね。寝そべれば地球の空がある様に見えるから。望郷の念も込めて、そして未来への希望を込めて作られた桜だよ」
「それがなぜ、後悔の花言葉を付けられたのです」
「空色を見るたびに地球を思い出して後悔するから。だから私は桜があまり好きじゃない。むしろ嫌いなのかも知れない」
悪戯じみた声に添えられた、柔和な微笑みは崩れない。
「望郷と付けるには、自分達の心の弱さを表すみたいでね」
瞳の奥に潜むものに、軽率に触れてはいけない気がしてあえて視線をそらした。
私の視線に誘導されて動いたか、彼の視線も再び枝垂桜へと向く。
「そう言えばここに来るまでに、ずいぶんと沢山のソメイヨシノの若木が植えられていた」
「ああ、カルスを作成し、全能性を取り戻した細胞から復活させた桜ですよ」
「ソメイヨシノはクローンばかりで、一斉に枯れ始めたからだね。そんな復活プロジェクトが始まっていたんだ」
目の前の彼もクローンでありながら、その単語を口にするのに躊躇いはない。
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