不如帰の卵を育む

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ふと彼が嫌いなのは青桜ではなく、クローンで有名なソメイヨシノの方ではないかとの考えが胸の内を過ぎたが、言葉にはしないで飲み込んだ。 「やはり、接ぎ木もしてあるのかな」 動いた視線が、花壇の片隅に植えられた早生(わせ)西瓜の苗をとらえる。隣では雑草に埋もれた苺がランナーを伸ばし始めていた。どちらも息子が大好きな果物だ。 「接ぎ木の方が主流ですよ。その方がカルスから作成するより手早く増やせますし、スイカと同じで根っこ部分は別種にした方が病害虫にも強くなりますからね」 スイカは冬瓜の一種に接ぎ木される。同じウリ科で、病害に強い冬瓜の根を使う事でスイカもまた病害に強くなるが、根を請け負う冬瓜は子孫を残す機会をほぼ失う。 「まれに、脇芽から伸びた(つる)に冬瓜が生るそうだけど、もれなく毒性が強いそうだね」 ククルビタシン。ウリ科の若い実に含まれる苦みであり、腹痛などの食中毒を起こす成分。 だから、スイカの苗に着いた冬瓜は食べるなと言われる。それの半分が、冬瓜の苗だとは知らない人には、何の事か分からない言葉だろうが。 話題は気ままに飛ぶのに、お互いに植物や昆虫への興味が強いからか直ぐに答えが返され、視線が訪れたミツバチへと移ると共に話題も変わって行く。 「星系外外来種の話は知っているかな」 訪れているのはセイヨウミツバチ。本来なら日本にいなかった種類の蜂だ。
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