不如帰の卵を育む

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意味深さが微笑みに加わる。 不意に、息子の声が耳の奥に木霊した。 桜の木に訪れた不如帰(ホトトギス)を追って、『テッペンカケタカ』と鳴き真似をして、ほんの一瞬で庭から道路へと元気に駆けて行った息子の声が。 幻聴だと分かっていても、枯れたと思っていた涙が溢れてくる。 この人が訪ねて来たのは偶然だろう。共通する話題と、祖父に似た部分と、そして私の心に寄り添ってくれた優しさ故に漏らした言葉。 ……取り戻せるなら、取り戻したい。 まさか、そんなと思う気持ちが自然と口を突いて出てくる。 「他にも特徴が」 震える声で尋ねたが、やるべき事は薄っすらと理解できていた。 「」 順番を変えて、ゆっくりと繰り返される言葉。 「この時代、核家族化はさらに進んでいると知っているよ。血を分けた家族よりも養子を引き取る人が増えたと言うし、シングルで子をもうける女性も多いそうだね。コストを考え、葬式は然るべき施設で行うか、行わない者がほとんどで、家で執り行う者は0,1%もいない。君は珍しい部類だと言えるね」
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