不如帰の卵を育む

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傍らを過ぎて行く彼の足は、私を少し過ぎて止まる。 「植えてみたまえ」 何に、とは言わなかった。 ただ視線だけが、閉ざされた家屋の奥にあるものを見据えている。 「数十年ぶりの休暇に地球へ来てみたが、ずいぶん変わったものだ。寂しい限りだね」 「人の繋がりは希薄になっています」 とっくに別れた妻は、自分が産んだ子の生死に興味すらないのか、連絡を取って見ても梨の礫だった。息子と同じ保育園に通っていた友達の親すら誰一人訪れない。 運転手を一方的に避難する私を見て、面倒事になると避けられたのだ。 自動運転が当たり前となった車の持ち主に非はないとされ、命を奪われた息子への償いは企業の手で機械的に行われた。 むしろ位置情報を知らせるタグを、息子に付け忘れた私に非があるとさえ世間は言う。 声を潜め、遠巻きに『だから男の人は』と囁く声を私は忘れない。 母性のない男に、女性の様に子は育てられないと。 子を置いて一人身軽になった女の存在は捨て置いて。 誰も彼も、自分が興味を持つ事にしか目を向けないのだ。 「お悔やみを申し上げます」
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