スピード

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スピード

二十分ほど歩いた所で三人は足を止めた。 霧の中、高さ三メートルはあるであろう影が現れたからだ。 「何……アレ」 アイラは懐中電灯の光を向けながら近づいて行った。 「また亡霊騎士じゃない!?危ないよアイラッ!!」 アルフィーはジャックにしがみつきながら警告をするが、アイラは謎の影にそっと近づいて行った。 「これって……」 影を見上げる彼女の側にジャックとアルフィーも近付く。 懐中電灯の光に浮かび上がったのは石で造られた螺旋階段だった。 下から六段目までは見てとれるが、それ以上先は崩れ落ちて何も無い。 「何か建物が建っていて『階段だけが残った』って感じね」 「みたいだな」 ジャックは相槌を打ちながら不意に階段の一部に光を当てた。 そこに照らされたのは時間が経って乾いた血痕。 「………………」 不吉な状況に眉をひそめる。 その間アルフィーは螺旋階段より少し先にもう一つ影を見つけた。 その影にも光を当ててみると…… 「見て!水飲み場があるよ!」 階段と同じ石で造られた壁が一枚だけ建っていた。その壁には女性をモチーフにした鉄製の飾りとアコヤガイの形をした水受けが掛けられている。 三人がその場所へ近付いて行く。 「違うわアルフィー、これ聖水盤よ!」 「聖水盤って、教会の入り口にある?」 「ってことは……昔ここには『教会が在った』って事か……」 ジャックは(他に何か残っていないか)懐中電灯で周りを照らしてみた。 同時にアイラは螺旋階段の側まで戻り上を見上げる。 「もし儀式がここで行われていたとしたら、また『教会の跡地』って事になるわね」 「前に神父様が言ってた『聖なる力が有った場所が無くっなて、不の力に変わった場所』を狙ってるのかな?」 アルフィーが眼鏡を押し上げてる間、アイラは螺旋階段の一段目に足を掛けた。 「登ったら遠くが見えるかしら?」 無邪気な笑顔を浮かべる。 「やめなよ!崩れたら危ないよ!」 「大人の意見は大事だぞ嬢ちゃん」 「分かってる冗談よ!」 ――ガアゴンッ 下ろそうとした足が一段目を地面に踏み込んだ。 「………………」 「何か押したな」 「押したね」 少し離れた地面の中から平たい石が飛び出した。 「!?」 「墓だな」 「墓だね」 更に墓石や逆十字が次々と地面から飛び出してくる。 「!!」 「墓地だなッ!」 「墓地だねッ!」 嫌な予感にジャックとアルフィーは逃げるように走り出した。 「待ってッ!」 アイラも遅れて後を追う。 ジャックが後ろを振り替えれば、墓石から真っ黒な甲冑を着た亡霊が浮かび上がり追い掛けてきた。 メイル(兜)からは髑髏が覗き、手には剣が握られている。 数十もの騎士の中には、骸骨になった馬に跨がる霊もいた。 「キャアアア――ッ!!」 それを見たアイラは悲鳴を上げると走るスピードを一気に上げた。 スピードはぐんぐん上がり、前を走っていたジャックとアルフィーをも追い越して行った。 「な!?」 「アイラ速ッ!!」 足に自信があったジャックは「信じられない」と言った表情でアイラを見詰めた。 「そうだ懐中電灯を消せばッ!」 アルフィーは亡霊騎士が光の中だけで動くのを思い出し、持っていた懐中電灯を消した。 走りながら後ろを振り替える。 「ハァハッ……良かった消えた!!ハァ神父様消えッ」 ――シャアアア――ッ!! アルフィーの真横から髑髏の息が迫って来た。 「うぁわわああ――ッ!?」
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