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夢の主
8:26 AM
「晴れて良かったね!」
ジャックの運転する車の後部座席で、アルフィーはご機嫌な声を上げていた。
助手席に座るアイラも晴天を眺め笑顔になる。
「ほんと!気持ちいいわね!」
「言っておくが、ピクニックでもドライブでもないんだぞ?」
ハンドルを握るジャックが二人に釘を刺す。
「アイラのママ探しでしょ?分かってるって……この会話前にもしなかった?」
アルフィーが眉をひそめた。
「ジャックのお小言?いつもじゃない」
「おい」
「夢で見たのかな?」
「見て虹!」
「!」
「!」
アイラの言葉に二人が虹に目を向けた。
瞬間、対向車のタンクローリーが通り過ぎて行った。
「ホッ」
何事もなく通り過ぎたタンクローリーに何故かアルフィーは心底ほっとした。
「綺麗な虹……良い事ありそうね!」
虹を眺めるアイラは満面の笑み浮かべた。
二時間後。
「最低」
「最低」
アイラとアルフィーの声がハモった。
晴天から一変、土砂降りの雨に変わっていたからだ。
「神父様まだ着かないの?」
「もしかして道に迷ってるんじゃない?」
おまけに車は鬱蒼とした木々に囲まれている。昼間だと言うのにヘッドライトが必要な程に暗い。
アイラとアルフィーは流れる風景を不安げに眺める。
「文句ならナビに言ってくれ!」
ジャックは車を止めナビを弄り始めた。
「電話してみたら?約束してる相手に」
「ああ、その方が良さそうだな」
スマホを取り出し電話を掛けるが……
「………………」
「駄目だ。繋がらない」 スマホは直ぐにしまわれた。
アイラは焦燥の念から「プゥ――ッ」と息を吐き唇を震わせる。
その間、アルフィーは持ってきた大荷物の中から懐中電灯を取り出していた。
「…………」
暇潰しに懐中電灯で周囲を照らし遊んでいるのだ。
薄暗い森をあちこち照らしていると……
「!?」
遠くで何か大きなモノが動いた気がした。
(何だったのか確認しよう)と慌てて懐中電灯を激しく動かす。
光が再びそのモノを捉えた。
「何だ、馬か……」
灰色の馬が木々の間で佇んでいた。
大きなモノの正体にアルフィーは「ホッ」と息を吐いた。しかし馬の上に何か他のモノも見えた。
懐中電灯の光をゆっくりと馬の上へ当てると……
「ッ!?」
光が捉えたのは銀色の甲冑を着た騎士。直後その者の頭だけが勢い良くアルフィーの方へと向く。
「ッハァ!?」
アルフィーは急いで懐中電灯を消し、椅子に深く座り込み外から見えないように隠れた。
(生きた者じゃない)直感で直ぐに分かった。
「大体話しを聞く位なら、わざわざ家に行かなくても他で待ち合わせれば良かったのよ!」
「向こうが『来てくれ』って言うから仕方なくだ!」
ジャックとアイラは喧嘩していた。
そんな二人にアルフィーは小声で呼び掛ける。
「二人共ッ……ねぇッ」
「待ってろ青年!今嬢ちゃんに小言を言ってる最中だ!」
「そ!何の役にも立たない有難い小言をねッ!」
二人の喧嘩に負けじとアルフィーはウィスパーボイスのまま叫んだ。
「亡霊騎士がいるんだッ」
「どこにッ!?」
「どこにッ!?」
「前――――――ッ!!」
「!?」
「!?」
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