目的地に

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目的地に

「わが守護の天使、御身は天主の御摂理(おんせつり)によりてッ」 ジャックはアクセルを踏み続けながら祈りを唱えた。 「御身の尊きご保護と絶えざる御導きとをッ」 バンパーに乗った騎士が剣を振り上げた。同時にタイヤは泥から抜け出し車が急発進する。 「やったッ!!」 アイラが明るい声を上げた。 しかしハイライトは点滅を繰り返していた。一瞬の光で無数の亡霊騎士がフロントガラスを叩き突進してくる。 次第に多数のヒビが視界を奪い始める。 「願わくばッ御身の強き御翼(おんつばさ)もて弱きが霊魂を覆い危険を免れしめ給えッ!!」 ジャックはアクセル全開で祈りを唱え続ける。車は泥道を跳ねるように走るが…… 「――苦しみに会うとッ!?」 遂に騎士の剣がフロントガラスを突き破った。 「キャアアア――ッ!!」 「ウアアアアッ!!」 「ッ――!!」 割れたガラスの塊が車内に飛び散った。激しく左右に揺られながらも止まらぬよう進む、しかし…… 「何でッ!?」 遂にはアイラの持っていた懐中電灯もが勝手に光を放ち始める。 「――落胆する、することなくッ!幸運、幸運にッッ――クソッ!!」 運転しながらの唱えも儘ならなくなった。 馬に乗った騎士が車内に突っ込んで来ようとした瞬間、アルフィーの瞳が赤く染まった。 「クッソタレアアアアア――ッ!!」 「!?」 「!?」 獣の様な咆哮を響かせるアルフィー。 その叫びに亡霊達と光は吹き飛ばされるように一瞬で全て消え去った。 普段の彼からは想像も付かない叫びにジャックとアイラは動揺する。 つかの間…… 「クッソまずいッ!!」 「ウソでしょッ!?」 急な暗闇に視界を奪われた車は木々に突っ込んでいた。 生い茂る木々を薙ぎ倒しながら、急斜面を激しく下って行く。 漸く木々を抜け出した車は宙を舞っていた。 「ィヤアアアアッ!?」 「ウォアアアアッ!?」 地面までは三メートル以上。 ジャック達は成す術も無く浮遊感に体を任せる。 ――ズガンッ!! 車は激しい衝撃を受けながらも綺麗に着地した。 『目的地に到着しました。お疲れ様でした』 カーナビが冷静に告げていた。 「ッぁあ!丁寧な道案内をどうもッ!!」 ジャックはぶちギレながらハンドルを叩いた。
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