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けれどもあたしは、これまでになく幸福だった。
キーボードを打つ手が追いつかないくらいに、溢れ出す物語があった。書いても書いても書き足りなかった。
がむしゃらに夢を追うこの瞬間、たとえ傍目には哀れに映ろうとも、そんな視線を向けてくる誰よりも、間違いなく愉しんでいた。
小説のモチーフは、桐嶋との恋愛だった。
心躍る出会いから始まり、目に映る全てが煌めいて見えた交際初期を通り過ぎ、徐々に彼の女癖と酒癖の悪さに苦しめられてゆく様を描いた青春泥沼恋愛劇。
桐嶋をモデルにして描いた恋人は、俳優のたまごという設定にした。芸人のたまごではさすがにあからさま過ぎると思ったからだ。
捨てるに捨てきれない、ごみのようだと思っていたこれまでの経験が、宝石のように輝き出した。それがなかったら、今この物語はうまれなかったのだから。
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