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無我夢中で書き上げた小説は、とある出版社が主催する、女性作家を対象とする新人賞に応募することに決めた。
大賞を取れば文芸誌での作家デビューが約束されているその賞には、過去に何度か応募したことがあった。
一次選考を二年連続で通過した翌年、今度こそはと気合いの入った渾身の自信作が、二次選考どころか一次選考にも引っかからず、すっかり心を折られてそれきり諦めてしまった賞だった。
何かの啓示のように、小説を書き上げたその日が、公募の締め切り日だった。
一次選考、二次選考、最終候補作の選定となる三次選考を、あたしの作品は流れるように通過して行った。選考期間中は雑念を振り払うため、発表先も決まっていない次作の執筆に、あたしは全てを注いだ。
最終選考会を終え、担当者から電話で大賞受賞の報告を受けた時、衝撃が大き過ぎた故か、不思議とあたしの気持ちは凪いでいた。
長年、作家デビューは夢のまた夢だった。あまりに遠かった夢に手が届き、現実としてすんなり受け入れることができなかったのだと思う。
ウェブサイトに掲載する受賞コメントを推敲している時も、インタビューを受けている時も、どこか現実味がなくふわふわとした心持ちだった。
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