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書店に並ぶ文芸誌の表紙を、堂々と飾る自分の名前を目にした時、ようやく実感が追いついて来た。
鶴野佳純。ペンネームではなく本名だ。
桐嶋に、早く気づいて欲しかった。ようやく硬い殻を突き破り、彼の背中に追いつけた気がした。
大声で叫び出したいような、全力で踊り出したいような、腹の底から湧き上がる烈しい喜びに身を震わせた。
あたしは待った。桐嶋があたしの作家デビューを聞きつけ、何倍もの利子をつけてあの一万円を返しに来るのを。
あたしは待った。痺れを切らし、酔った勢いで桐嶋に送ったメッセージには、いつまで経っても既読が付かない。
冷静に考えてみれば、あれだけ売れっ子になれば古い知人からのややこしい連絡も多いだろうし、きっと連絡先を変えたのだろう。あたしの連絡先は変わっていないが、何らかのタイミングで彼の携帯から消えてしまい、連絡できずにいる可能性も考えられる。
あたしは本名でツイッターのアカウントを開設した。作家として、SNSでの宣伝にも力を入れようと思った。
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