今、うまれる

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今まさに、相方のボケへのツッコミとして、彼が発した辛辣なワードを切り取ってこしらえた、見出しばかりが扇状的な、なんの中身もないネットニュースが画面上に流れて来たところだ。 こんなくだらない発言ひとつが記事になるなんて、偉くなったもんだと思う。随分と儲けていることだろう。貸した一万円を、返せ。 十年も根に持つほどの金額ではないとわかっている。けれど奨学金とバイト代で、どうにか学費と生活費を工面していた当時のあたしにとって、その一万円はとてつもなく大きな価値を持っていた。 だから、彼の活躍ぶりを目の当たりにするたびに、何度も葬ろうとした執念のようなものが沸々と蘇ってしまうのだ。 または、一万円の価値があたしの中で今でもそう変わっていない、というのも原因のひとつだろう。 本屋と水商売の掛け持ちバイトに忙しい、小説家志望の大学生だったあたしは現在、薄給と派遣切りのプレッシャーに喘ぐ、小説家志望の独身派遣社員だ。 未だがっちりと硬い殻に覆われた、何者でもないたまごのままだった。
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