今、うまれる

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痩せっぽち青年だった頃の桐嶋が、咄嗟に脳裏に蘇る。 バイトはことごとく首になったし、彼から送られてくるメールはほとんどがひらがなだった。そんな彼が、小説を出版するなんて。 確かに桐嶋は、素人のあたしから見ても独特のお笑いセンスに長けていた。 面白さ。その唯一の優位点があったから、あたしは彼からの告白を受け入れたのだ。 桐嶋と付き合っていた当時、学生時代の通知表を見せてもらったことがあったけど、芸人でなければ絶対に笑ってはいけないような、悲惨な有様だった。 間違いなくゴーストライターを携えているはずなのに『一生懸命書きました。』なんてしれっと宣っていることも腹が立つし、名前さえ売れればなんでもありの世の中なんだと、あたしは納得いかない気持ちになった。
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