今、うまれる

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しかしやはり。元彼女としては内容が気になるのも本音である。 それも学生時代のかわいい恋愛の相手ではない。何しろ彼が大きな漫才の賞レースで唐突に準優勝を果たし、無名の地下芸人から人気芸人への階段を一気に駆け上がる寸前、あれは確か二十五歳の時だった、その頃まであたしたちの付き合いは続いていたのだから。 正確に言えば、その頃にはもう数ヶ月に一度会うか会わないかの、セフレのような存在に成り下がっていたけれど。 早速あたしはアマゾンを開き、彼の小説を買い物カートに放り込んだ。 翌々日、それは届いた。ペラペラとページを捲り、なんてことはない、芸人を志すきっかけとなった中学時代の文化祭から始まり、彼に直接聞いたことがあるものや、彼がさまざまなメディアで発しているおおよそ見知ったエピソードがつらつらと並ぶ中、あたしはあるひとつの章タイトルに釘付けになった。 『借りたまんまの一万円』
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