02.重なる不運は訝しく

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「……さすがに、これではどうにもならないか」 直後、距離が保たれたと分かったころには正面で、形の良い唇が息を吐いていた。()になりそうな胡坐姿で。 「あの、厘……今のは一体、」 『岬、聞いて。この男には“視えている”。正直、私はあんまり関わりたくない』 再び響いた。先ほどよりも明確に、歯切れ良く伝う音。「この男」が厘を示すことに気がついたのと同時、彼はふっ、と片方の口角を持ち上げた。 「そいつの言うとおりだ。俺には、お前に憑いた霊が見えている」 「え……」 大胆不敵に見える笑みが、不覚にも背筋をなぞる。……“聴こえる”自分ですら“視えた”ことが無いというのに。岬は目を丸くした。 「お前が正常に戻る以前からずっと()いていたな。まぁ、倒れた頃に憑いていたのはコイツではなかったが」 「正常、って……」 「宇美を……母親を失くしてから正常ではなかっただろう。お前は、いつも通りではなかった。憑かれている霊の声さえも、拾えないくらいに」 淡々と紡がれる事実に、岬は頷いた。彼の言う通り、頭で響く声の主が“入れ替わった”事にすら、気づけていなかった。通常なら、必ず判るはずなのに——— 恐らく、厘と過ごした一週間で徐々に本来の感覚を取り戻していったのだろう。正常な、他大多数の人間からすると異常な感覚を。
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