どうぞ、もう会えませんように

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 少女は、物心ついたときには山の麓の集落にいた。  そこは、半獣のものたちが身を寄せ合って暮らす、小さな、けれど豊かな集落だった。  ただ、少女だけはその集落で『人間』だった。  赤ん坊のとき、山の上から父親と思しき男とともに転がり落ちてきて、少女だけが生き残ったのだそうだ。  それから半獣たちは(タカラ)という名を赤ん坊に与え、慈しんで育てた。  その土地が与えるものなのか、それとも口にするものによるのか、生まれついてのものなのか――少女はただの人間だというのに、研ぎ澄まされた五感を持っていた。遠くの音がよく聞こえ、遠くのものもよく見え、僅かな匂いも嗅ぎ分けられる。  だから、山の上にある人間の村……自分が生まれた場所だと思われるその場所を、意識するようになるのに時間はかからなかった。
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