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親代わりの半獣と暮らすこじんまりとした小屋で、思い切って少女は口を開いた。
「樹香。私、自分を生んだ親に……会ってみたい」
少女の髪を優しく梳いていた半獣はその手を止めた。黒い、絹糸のような宝の髪がさらりと肩に落ちる。
狼に似た顔立ちの樹香と呼ばれた半獣は一つため息をつき、
「いつか、宝がそう言いだすのだろうと思ってはいたけれど……こんなに早いなんて」
言えば、樹香や、可愛がってくれている集落の半獣たちが悲しむのはわかっていたから、宝も悩んだ。けれど、どうしても親に会いたい気持ちは抑えることができなかった。
「ごめん、樹香……私」
「謝らないで。自分の生まれを知りたいと思うのは当然のこと。きっと本能なのよ。私たちも覚悟はしていたわ」
椅子に腰かけた宝の小さな肩を、銀の毛に包まれた樹香の手が撫でた。
温かな温もりがじんわりと伝わる。
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